彩 思 い [ ayaumui ]

『彩思い(あやうむい)』 

ブログ『彩思い』は新城音絵の文筆記録のページです。
オフィシャルブログは『南島游行』へ移行いたしました。

〔落ち穂2〕 トゥンケーリ(振り返り)

 「トゥンケーリ」それは直訳すると振り返りまたは振り向きだと思う。
八重山の舞踊を想うとき、何とこのトゥンケーリの所作、振り返りのシーンが多いことか。それは別れの瞬間であったり、過ぎた時間を思い起こすとき、またまわりを見わたす所作など、色々な想いからのトゥンケーリがあるが、私はその何とも胸の熱くなる別れ際の「トゥンケーリ」が好きである。

 不思議なことに何度同じ踊りを踊っても、その時々で感じ方(振り返るときの想い)が違うのである。想いをそっとそこに残しつつ振り向きなおるやるせなさ、想いがつよいだけに振り向くことのできないせつなさ。
 別れ際、帰り際、退け際、トゥンケーリとはまさに、その「きわ」の心の機微を言うのだろうか。それは心の動きの「はて」であり、「しめ」であり、「むすび」であり、きわめて「長い瞬間美」ではないかと想う。一瞬でしかないトゥンケーリに深い想いと長い時間を感じ、これほどまでに私がこだわるのはなぜであろうか。

 今想えば私にとってあのトゥンケーリは何だったのだろう。八重山を離れ那覇の高校に入学して二ヶ月がたった頃のある日、出張中の父が私の寮に会いにきてくれた。帰り際、曲り角までの道を何度も何度も振り返り大きく右手を振っていた父…。少しでも長く姿を見ていたくて立っていた私…。またすぐに会える想いで、父の振り返りを見送ったはずだったのに…。あの光景はまさにトゥンケーリ見ぃ見ぃであった。それは父から私への最後のトゥンケーリとなった。

 私はこれまでに舞台で色々な想いのトゥンケーリに出会ったが、心をうつ芸はその舞踊の持つ想いがトゥンケーリに集約されているとさえ思えるのだ。舞台の出会いであれ、日常の出会いであれ、振り返りとそして向き直った背が、たまらないほどのやさしさやせつなさ、やるせなさやさびしさ、そして凛としたつよさをも語ってくれる。
 いつの日か、心に残してもらえる「語りかけのトゥンケーリ」の踊りができる日を…。

(琉球新報「落ち穂」1996/7/16掲載)

2007.04.13 カテゴリー: 17 随筆/[落ち穂] | 個別ページ | コメント (0)

〔落ち穂1〕 私・わたし

 私は今-おどり・踊り-で時を過ごしている。踊りに熱中しているのだ。
 「歩み・振り・姿・表情・間合い・思い…」実際に体を動かして稽古をしているときのみでなく、私のすべての思考が表現ということに起因していることに、あらためて気がつくこのごろである。何をするにも、その思いが軸になっているといっても言いすぎではないように思う。

 思いおこせば二十年前、画家である父と舞踊家である母との間に私が生まれたその時から(母の胎内にいた時から)我が家には父と母の創る姿があり、そしてそこには毎晩のように芸術論をたたかわせる大人たちの声があった。子供ながらにその空気が私はたまらなく好きであった。
 私の育った二十年の歳月をさかのぼって思う時、父が描いていた油絵の具のしみついたアトリエのあのにおい、そして新しい作品づくりに模索する母の姿…。それは私にとって懐かしい、そして何よりも貴重な宝物である。

 今、私は創るという世界に足を踏み入れた。それもごく自然にである。その道を決めたのは演出という仕事に興味を持ったことに始まる。それにはまず「演じる」という立場の自分に出会いたくて二年前、あらためて舞踊家である母に弟子入りしたのだ。
 私にとって驚くほど自然でとりわけ考えることもなく、その道を歩み始めていた。二十年の流れが大きく導いてくれた感がする。日ごとにその思いはつのるばかりだ。
 自然の時の流れ、事象の流れのすごさと併せて、この先、自己の作業の中で「意識する」ということの意義を感じ始めている。

(琉球新報[落ち穂]1996/7/2掲載)

2007.02.13 カテゴリー: 17 随筆/[落ち穂] | 個別ページ | コメント (0)

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登録年月 04/2007
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