八重山島産の食材で新たな味巡り
年の瀬、十二月も半ばを過ぎると、祖父は、家の門から前庭にかけて、白砂を敷きつめ、新たな年を迎える支度をする。この季節になるとお決まりの、母の話を思い出した。
本書は、著者の石垣愛子さんが『味の手帖』に一九九九年の一月号から、二〇〇三年十二月号まで掲載した『食在南海~石垣味だより~』を再編集したもので、八重山の年間行事、あるいは季節の様を切取ったエッセーに、八重山ならではの「食・味」の紹介が添えられている。
一月・懐かしき「八重山の正月風景」から始まる八重山の折々、季節をたどり、おいしいかおりに誘われながら、いつしか私も、この「八重山」を旅しているような気分になった。
長年、著者が営んでこられた「民宿石垣島」。各国各地のお客さまと繰り広げられる食閑談は心引かれる時間である。南国果実の数々、近海の豊富な魚たち、八重山独特の食材「アダン」や「オオタニワタリ」など、色とりどりの尽きない話題に、まるで私も参加しているようで愉快な気持ちになる。離島への小旅行、ドライブでの遠出、その折々に詠まれるうた(俳句)もまた、なんともいえない雰囲気で、不思議と懐かしいこころもちに。なった
この島々を、「食」というレンズを通して見たとき、これほどまでに濃(こま)やかなのは、島産まれの食材にこだわり続けてきた著者だからこそであろうか。いつ時も、緑や花々の絶えないこの島の、ほのかな移ろい、風のにおい、光の色、雨の音、神秘的な巡りの瞬間が、日々の暮らしの中に描かれている。そしてその出会いは、厨房での新たな味巡りへと循環しているのだろうと思った。
人間が生きていく上で、この上ない土地と思えるこの八重山も、時代の波にのり、変化しつづけている。「美食」ではなく、体にもおいしい「美味」を、という印象的な言葉は、よもや食文化だけに限られたことではないのでは…。
祖母から母へ、母から私へと受け継がれた「わが家の食」を、もういちど探ってみよう、歩いてみようと思わせる一冊である。
(沖縄タイムス「今週の平積み」2005/12/17掲載)