彩 思 い [ ayaumui ]

『彩思い(あやうむい)』 

ブログ『彩思い』は新城音絵の文筆記録のページです。
オフィシャルブログは『南島游行』へ移行いたしました。

〔唐獅子3〕 春・島桜

 年越しのころの急な冷え込みで、長い休眠から目を覚ましたのでしょうか…早々に色づきはじめた我が家の桜は、日に日に、ひとつ、ふたつと緋の色を重ね合わせています。すぐお隣に咲く一年中満開のブーゲンビリアやハイビスカスも、今この時だけは心なしか控えめにしてくれているような様子。「桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿」という昔からのことわざが、決して「桜はほったらかしでも良い」という意味を含んでいるわけではないのでしょうが、幼稚園入園記念に祖母が植えてくれた我が家の桜は、三本とも堂々としたお育ちであります。

 さて沖縄で「桜」と言うと、もちろん「緋寒桜」。台湾や中国南部が原産だということは以前に聞いたことがありましたが、東京での学生時代に「緋寒桜」と書かれたプレートの付く桜の木に対面した時は、とにかくびっくりいたしました。私の中で、緋寒桜のあの鮮やかな緋色は南国独特の色で「島色の桜」という勝手な思いこみが強かったのでしょう…何だか少しがっかりとしたことを憶えています。今思えば、同じ緋寒桜でも、我が家の、または沖縄に咲くそれに比べて花の一つ一つが釣り鐘のようにもっと下向きに咲いていたような…いや、そんなことよりも、その驚きの対面に、急に島の春の匂いがこみ上げてきて、思いがけないせつなさと、たまらない淋しさでグショグショになったものです。また島の緋寒桜が、椿のように花ごと、ぼたっと落ちるのと違い、涙のようにはらはらと舞い散るソメイヨシノの姿は重ねてやるせなさを感じ、桜の花びらの中を行くバスで、あるいは電車を待つ駅のホームで、ドラマのヒロインのような心持ちに、何度出会ったことでしょうか…

 さて後々の学習で緋寒桜の北限は、おおよそ関東南部、比較的暖かい地で、寒さと共に咲く寒桜系であることを知りました。

 ん…でもやっぱり、緋寒桜の緋色は沖縄の色だなぁ…沖縄のあの激しい夏に、あの太陽の力をいっぱいに蓄えた花芽だからこそ…緋色(陽色)の桜花なんですよね、きっと。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/2/4掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子2〕 元日の来訪者

 元日の朝、東の庭に、おめでたい来客があった。早速のお近づきを願って、奥部屋から『沖縄の動植物』『沖縄の野鳥』などをかついできて、じっくりと目を行き来させてみる。あまりお見かけしないお姿、きっと珍しいお方に違いない!と私の胸は高鳴る。結局、興奮しながらめくった分厚い中に、その方は見当たらず…もしかすると結構お馴染みさんなのかな、と思いつつもしばらく釘付けになる。

 まぁ、何はともあれ、できすぎた話、いや、ありがたい事である。酉年幕開けの朝に、小さき二羽を引き連れてのご来訪。威風堂々とした鳥の親子を拝む。

 「正月ぬすぃとぅむでぃ 元日ぬ朝ぱな」元日の朝方にアコウの大木より、東の空に飛び立つ鷲の親子を詠んだ「鷲の鳥節」という民謡がある。新年に、または祝いの席に欠かすことのできない、八重山の人々がこよなく愛す一曲だ。朝日を浴びて舞い飛ぶ雄大な世界を想う。優に一メートルを超える羽の広がりなどは、まさに正月を彩る「綾羽/あやぱに」ではないか。

 さて鷲の鳥節の情調に浸りつつ、まことに不謹慎だが、食すること以外、鳥は滅法苦手である。嘴の鋭さ、鶏冠の質感、それにあの首のくねり、動物好きの私でも鳥だけはご勘弁のはず。重度の鳥恐怖症にも関わらず、新年早々に興味津々であるから、今年はきっと嘉利の年!不思議とたいへんご機嫌になる。

 ところで我が家の庭にはマイペースなビーグル犬を筆頭に、お公家さまのような眉を持つ四つ目の黒が二匹いる。来年は君たちが主役だなと思いつつ、年を飾る十二支のご来訪を思い描く。ねずみ・鳥・犬は問題ない。まぁ、うさぎとへびもひょっとするかもしれない。さて、牛・寅・馬・羊・猿・猪が庭でにぎやかに遊ぶ姿…空想好きの私には愉快でたまらなく、にんまりとなる。辰の年はなおさらに華やぐのであろう。

 さぁ今年の主役は…今日もりっぱに子連れ出勤である。我が家は朝の点呼が日課となり、皆大はしゃぎだ。ただ一人の仏頂面は、今日もこたつで丸くなっている。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/1/21掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子1〕 冬の記憶

 小学校に入学して間もないころ・・・ 十数年間、入退院を重ねていた祖母の病室で、消灯後の深夜、小さな明かりを頼りに原稿用紙に向かう母の姿があった。祖母のベッドの狭いわきに添うように広げた折り畳みベッドが、あのころの母の書斎であった。

 ピアノと舞踊の教室、自らの公演活動、家事と子育てを見事にこなす・・・二十四時間を秒刻みで動きまわる母は、超人的、いや怪物的な人?だったと思い起こす。私なんて、いまだ独り者でありながら、なかなか真似ができず、いつもギリギリで追いかけられるばかり。頭が下がる思いである。

 しかし、当時の母も原稿の締め切りにだけは追われていたように思う。石垣市内の沖縄タイムス八重山支局へ駆け込み提出のお供を、何度もさせてもらった。「もう少しのお時間を」と言う母に「大丈夫ですよ。ファックスで送りますから」。家庭用ファックスがまだ普及していなかったころ、支局へ行く度に便利なものがあるものだとびっくりさせられたものだ。

 あの夜、母が病室で綴っていた「唐獅子」執筆の依頼を私も頂戴することとなった。「原稿の送信はメールが使える方はなるべくメールにて」とアドレスが書き添えられている。IT化の波にうまく乗ることができた、というか乗ってしまった私の執筆は、今やパソコンの画面の原稿用紙に向かい、キーボードとマウスとやらでひたすら打つ。紙を無駄にすることもなく、打ち終えると入稿はメールでひとっ飛びの瞬間移送!なんと便利なことかと思いつつも、味も素っ気もないものになりゃしないかと心配になる。

 書く、綴る、認(したた)める。冬の寒さに恋しさがつのる、人肌のようなあったかい言葉を連ねたいと思う。深い夜に刻みこまれた、あの母の記しのように・・・。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/1/7掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

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