年越しのころの急な冷え込みで、長い休眠から目を覚ましたのでしょうか…早々に色づきはじめた我が家の桜は、日に日に、ひとつ、ふたつと緋の色を重ね合わせています。すぐお隣に咲く一年中満開のブーゲンビリアやハイビスカスも、今この時だけは心なしか控えめにしてくれているような様子。「桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿」という昔からのことわざが、決して「桜はほったらかしでも良い」という意味を含んでいるわけではないのでしょうが、幼稚園入園記念に祖母が植えてくれた我が家の桜は、三本とも堂々としたお育ちであります。
さて沖縄で「桜」と言うと、もちろん「緋寒桜」。台湾や中国南部が原産だということは以前に聞いたことがありましたが、東京での学生時代に「緋寒桜」と書かれたプレートの付く桜の木に対面した時は、とにかくびっくりいたしました。私の中で、緋寒桜のあの鮮やかな緋色は南国独特の色で「島色の桜」という勝手な思いこみが強かったのでしょう…何だか少しがっかりとしたことを憶えています。今思えば、同じ緋寒桜でも、我が家の、または沖縄に咲くそれに比べて花の一つ一つが釣り鐘のようにもっと下向きに咲いていたような…いや、そんなことよりも、その驚きの対面に、急に島の春の匂いがこみ上げてきて、思いがけないせつなさと、たまらない淋しさでグショグショになったものです。また島の緋寒桜が、椿のように花ごと、ぼたっと落ちるのと違い、涙のようにはらはらと舞い散るソメイヨシノの姿は重ねてやるせなさを感じ、桜の花びらの中を行くバスで、あるいは電車を待つ駅のホームで、ドラマのヒロインのような心持ちに、何度出会ったことでしょうか…
さて後々の学習で緋寒桜の北限は、おおよそ関東南部、比較的暖かい地で、寒さと共に咲く寒桜系であることを知りました。
ん…でもやっぱり、緋寒桜の緋色は沖縄の色だなぁ…沖縄のあの激しい夏に、あの太陽の力をいっぱいに蓄えた花芽だからこそ…緋色(陽色)の桜花なんですよね、きっと。
(沖縄タイムス「唐獅子」2005/2/4掲載)