デイゴの花は、毎年必ず咲くとは限らず、年によって花の量が違うらしい。見事に満開になる年は台風の当たり年になると言い、「今年はデイゴの花が咲くのが遅いから、台風は大丈夫だはずよー」と親戚のおばーが言う。
沖縄を象徴する県花のデイゴは、オオゴチョウやサンダンカと並んで、沖縄の三大名花の一つ。軽軟で変形しにくいため琉球漆器の素地(きじ)となり、また黒色に映える絵柄の朱はたまらなく美しいものだ。
小学生の時、中庭のデイゴの木をハウスに、おままごとをよくしたことを思い出す。小さな身体には贅沢な巨木で、くりぬかれた洞穴のような一階、リビング用に一番広い二階、そしてそこから太く分れた枝枝は、寝室にもってこいのちょうど良い角度だった。白花を咲かせるデイゴがあると噂を聞いては、放課後に視察団を結成し、開花状況の観察に通いつめたこともあった。ままごと遊びを卒業した中高学年には、下校の時間帯にデイゴの花を一所懸命に食べているオオコウモリに会うのを楽しんだものだ。まるでデイゴの花にくちづけをしているような可愛らしいコウモリが私はいまだに大好きである。
燃えるような、炎のようなデイゴ花の色は、宙(そら)により、陽光により、鮮やかな赤朱色を重ね、真紅・深紅となる。年間を通して、花々のにぎやかな沖縄だが、その中でも満開のデイゴの華やかさ、豪華さは、群を抜いて美しいものである。そして太陽のエネルギーを思いっきり吸い込んだように、たくましく開くデイゴの花々は、島に季節の巡りを伝えてくれる。
毎年、デイゴ色が島を染めはじめると、春の訪れが待ち遠しかったあの冬を思い出す。急に訪れた最愛の母の入院生活…寒さの厳しい冬だった。病院の脇のデイゴの大木。私の身体を、精神を持ち上げるようにどっしりと立つ。一つ残らずに葉を落としていた冬のデイゴは、アスファルトをめりめりと割りながら、根はほどよい雨で潤った大地をつかみ、眩しく力強い紅を絞り出すように見せてくれた。忘れられないあの「うりずん」のみずみずしさ。母と一緒に迎えた「若夏」の爽やかな風。
今年もクサゼミは、よい声を届け、島は「梅雨」から「夏」へと元気に巡りますように。
デイゴの紅に私は祈る。
(沖縄タイムス「唐獅子」2005/4/15掲載)
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