彩 思 い [ ayaumui ]

『彩思い(あやうむい)』 

ブログ『彩思い』は新城音絵の文筆記録のページです。
オフィシャルブログは『南島游行』へ移行いたしました。

〔唐獅子13〕 「健康」って?

 「健康ブーム」は止まるところを知らず、半ば強迫観念のような現象を見ていると、それに逆らえる人の方がかえって少数派なのかもしれないと思えてきます。テレビも雑誌も「ヘルシー」「ダイエット」「○○に効く!」などのタイトルがまだまだ目につき、追いかけっこをするように健康を売り物にした商売が日々登場しています。その中でも特に食品に対する偏執的な健康志向を「フード・ファディズム」と呼ぶようで、極端なこの現象が、近年ますます強くなる傾向にあるようです。

 私たちの「健康」とは一体全体、何なのでしょうか?つい最近まで、重大な病気でないことが健康だと考えられていました。日々の暮らしの中でのちょっとした不調や疲労を「不健康」とは言わなかったはずです。

 もちろん重大な病気につながる無理や過信はいけませんが、日によっての調子の悪さや身体の疲れは、生きている証しであると思いたいものです。物が豊かでない時代を強く生き抜いてきた先人たちはきっとそうであったはずなのに、物品も情報も何不自由なくあるこの時代の私たちの方が病と隣り合わせにあるなんて、なんとも情けないものです。「健康」とはいかなる状況におかれても、たくましく生きていく精神の力である、と私は信じています。

 さて、テレビ番組の特集で放映された商品が番組終了後にスーパーから姿を消す現象も、この石垣島でさえ普通に見られるようになりました。ヨーグルト、豆乳、今は寒天、お次は何でしょう。「妻に頼まれ探し歩いて、揚げ句にはおれの方が痩せているぜ!」という笑い話も。ただ、日ごろから食している商品の特集が放映されると「あら!体にいいのね、うれしいわ」と思う反面、非常に困った事態になります。何せ離島では商品の補充に時間がかかり、いまだに寒天が手に入らないんですよ。

 私たちが「健康」であるために重要なのは「バランス」でしょう。でもそれが難しいから手っ取り早い特定の物に集中していまいがちです。本末転倒にならないように、「健康・生きる力」を養いたいものです。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/6/24掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子12〕 夏の装い

 旧暦五月四日・ユッカヌヒー。昔からハーリー鉦とともに梅雨が明けると言いますから、今年もいよいよ夏本番!といったところでしょうか。年々暑さが倍増しているように思える日本の夏、今年はノーネクタイ・ノー上着「夏のビジネス軽装(クール・ビズ)」の涼しい話題で始まりましたが、テレビの国会中継や会見は、まさに「ノータイで問われる閣僚たちのファッションセンス!」といったところです。

 今回、霞ヶ関でも話題となったわが沖縄の「かりゆしウェア」は、二〇〇〇年の九州・沖縄サミットをきっかけに普及が進んだと憶えています。今では沖縄のビジネスシーンに定着し、代表する稲嶺県知事はいつもおしゃれなデザインをステキに着こなしていらっしゃいます。「涼しい。でも無礼でない」というのが夏の軽装においての重要なことだと思いますが、わが八重山のみんさーウェアは、シンプルでモダンで、そのうえ上品で、霞ヶ関の皆さまにも、イチオシの夏スタイルだとお勧めいたします。

 さて大きなねらいはエネルギーの有効活用、そして地球温暖化防止。でも締めていたネクタイをただ外しただけでは襟元が広がってやっぱりしまりがないものです。中にはワイシャツの長袖を肘下辺りまで捲っている方も。頭にネクタイのハチマキは無いものの、居酒屋で一杯!いえ、すでにできあがっているおじさまスタイルに見えてなりません。リゾート地の礼装によく用いられるスタンドカラーや、ボタンダウンやスナップダウンのような襟元に気をつかったデザインを着こなしていただきたいものです。

 さて以外と喜んでいるのは女性の方かもしれません。厚着の男性に合わせて温度調整されている夏のオフィスではハイソックスにニット、おまけに夏が過ぎたころには微熱の続く冷房病に悩まされる人も少なくないようですので。

 「クール・ビズ」の大号令により、これまで以上に、麻の生成のスーツなどをさらりと着こなす男性の夏姿に、たまらなく惹かれるのは私だけでしょうか。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/6/10掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子11〕 もしもし・・・

 携帯電話の始まりは、一九七九年、東京二十三区内で開始された「自動車電話サービス」だそうです。高額な新規加入料、保証金、基本使用料、通話料金、何といっても驚くのは、七キログラムという重量でしょう。

 次第に小型化と軽量化が進み、機能面は電話本来の役目に加え、最近ではインターネット、カメラ機能は当り前、ラジオにテレビに…等々。当初、モノクロ画面に、文字は英数字とカタカナの入力しかできなかったなんて今ではとても信じられません。ましてや、ちょっとした機材を車に積んでいるような時代からは本当に夢のような進化と普及なのでしょう。おかげさまで我が家では最近、八十五歳目前の祖母までも携帯ユーザーになってしまいました。

 今では、中・高校生だけでなく、多くの小学生が携帯電話を持っているといいます。それにはいろいろな時代背景も影響しているのでしょうが、携帯電話なんて無くて当り前の時代に、生まれ育ったことを、私は最近とても感謝しています。

 さて「電話」というと思い出すことがあります。高校生の時、想いを寄せていた男の子がいて、その子の家の電話番号を誰からどうやって、それもいかに怪しまれずに聞き出そうかと悩んだものでした。さぁ第一関門をクリアしても、実はこの次こそ大変な試練で、寮生活中だった私は、一階の公衆電話の前で、受話器を上げたり、下ろしたり…お家の方が出られたらどうしよう…。その場合を想定して、何度も何度も繰り返しました。「夜分遅くに失礼いたします。私…」自分の心臓の音と重なって聞こえたあの時のベルの音は、今でも忘れられない私の大切な青春であります。失礼があってはいけない、それよりも何よりも好かれたい!と思うのは当然のことですよね。

 目上の方への言葉使い、尋ねごとの仕方、お礼の言葉、夜分の電話など、成人するまでに身につけるべきことができなくなってきているように最近思います。個々が携帯電話を持つようになったことだけが原因ではないでしょうが、あの時の胸の高鳴り、緊張感、やっぱり大切ですよね。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/5/27掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子10〕 頼ム! 求ム!

 母の定期検診に、朝早々と病院へ出かけた。お決まりの長期戦になる覚悟で、まぁ久しぶりにわが島の総合病院視察でも、と少し偉そうな同伴者である。

 沖縄県立八重山病院は、石垣市民はもとより、竹富町、そして与那国町に暮らす、あわせて約五万人の人々が携る病床数三五〇床の総合医療機関。今から三三年前の五月一五日、日本復帰の日に琉球政府立病院から引き継がれた五病院 (名護、中部、那覇、宮古、八重山)の一つである。総病床数八六五床でスタートした沖縄県病院事業が、今や二,六六四床。日本復帰当時、立ち後れていた医療事情も年々整い、また民間の医療機関等も加わって医療事情は全国平均に近づきつつある、というが離島はいまだに医師不足。緊急を要することの多い脳神経外科はあと二ヶ月で閉鎖らしい。

 さて建物も老朽化の進んできたところが多々ある。それに圧迫感のある低い天井、雨漏りによる黒いシミも気にはなるが致し方ないだろう、まだまだ我慢ができる。例えば長時間待たされる状況を考えてベンチシートの配置一つも重要だと思う。人目の気になる症状の人・時だってある。乗り合いバスのような向かい合わせは非常に落ち着かないものだ。震え上がるほどにききすぎた冷房、真夏でも上着が必需である。外気との差が激しく、出入りの時には一瞬立ちくらみがするほどだ。ご高齢の皆さんは平気なのだろうかと心配になる。そしてどうしても耐えられないこと、改めて欲しいことがある。それは若い看護士さんの年輩者への言葉づかいである。私だってまだまだ若輩者だが、身内への対応がそれだと大分がっかりとする。寝たきりの方も、認知症(痴呆症)の方も、島の大先輩である。礼節を守ることを忘れずに接していただきたいと強く願う。

 心身にダメージを負った患者が、さらなる不安や苦痛を抱くことのない「ここに来たからもう安心——。」が欲しいものだ。ほんの少しの気づかいや心配り、細やかな対応や工夫は、きっと大きなゆとりと癒しの空間を生むに違いない。今、それこそが肝心である。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/5/13掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子9〕 沖縄移住考

 個人運営で日々更新が簡単にできる「ブログ」は、私の周りでも大流行である。視点の面白さ、細やかな更新、お気に入りをみつけては毎日通い、そしていつの間にかブログを作成する一人となっている。気軽にそして気楽に参加できるブログは、今や欠かすことのできない情報収集ツール(道具)である。

 ブログのはしごをしていると「沖縄移住」関連の多いことにびっくりさせられる。沖縄暮らしを夢見る移住計画中の人、情報探しをする移住して間もない方、アドバイスを更新する島暮らしベテランさん、そして不動産情報や就職情報などを提供する地元の支援サイト。コンビニエンスストアのちょっとした書籍コーナーにも、その系統の本がずらりと並んでいるではないか。

 そういえば、私の暮らす石垣島でもこの数年の急激な人口増加。つい最近までは、村の道々、街の店先で見かける方は、どの村の、どの家の、と大方見当がつく島の人だったように思うが、確かに近ごろは「石を投げれば」といえるほどの移住ブームを実感。新たな巡りにうれしくなり、でもほんの少しだけ複雑な気持ちにもなるものだ。

 まだ続くの?と思えるほどの空前の沖縄ブームに、全国的な田舎暮らしへの動きがちょうど重なって沖縄移住ブームとなったのか…。都会生活で壊れかけた心身を癒やす、リフレッシュする、再生する、そして新たに、というような希望と期待を抱いて向かう「地」に沖縄が選ばれるのはなぜだろうか。日本であって日本でないような南島生活へのあこがれ…。こわばった精神を、五感を解きほぐし…究極の安らぎを!でしょうか。

 ネット上のあるサイトによると、移住を考える人のうち「今すぐにでも移住したい」が三割、「仕事があるなら」が六割強。そして意外と移住に失敗して転出する人も多い現実。国内なのに「引越し」ではなくて「移住」といわれるのも厳しさを物語っているのでは…。海外へのそれと同じぐらいの覚悟が必要だということでは…。沖縄の地に生きる人間としても、考えさせられることが尽きないものである。

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子8〕 若夏を待つ

 デイゴの花は、毎年必ず咲くとは限らず、年によって花の量が違うらしい。見事に満開になる年は台風の当たり年になると言い、「今年はデイゴの花が咲くのが遅いから、台風は大丈夫だはずよー」と親戚のおばーが言う。

 沖縄を象徴する県花のデイゴは、オオゴチョウやサンダンカと並んで、沖縄の三大名花の一つ。軽軟で変形しにくいため琉球漆器の素地(きじ)となり、また黒色に映える絵柄の朱はたまらなく美しいものだ。

 小学生の時、中庭のデイゴの木をハウスに、おままごとをよくしたことを思い出す。小さな身体には贅沢な巨木で、くりぬかれた洞穴のような一階、リビング用に一番広い二階、そしてそこから太く分れた枝枝は、寝室にもってこいのちょうど良い角度だった。白花を咲かせるデイゴがあると噂を聞いては、放課後に視察団を結成し、開花状況の観察に通いつめたこともあった。ままごと遊びを卒業した中高学年には、下校の時間帯にデイゴの花を一所懸命に食べているオオコウモリに会うのを楽しんだものだ。まるでデイゴの花にくちづけをしているような可愛らしいコウモリが私はいまだに大好きである。

 燃えるような、炎のようなデイゴ花の色は、宙(そら)により、陽光により、鮮やかな赤朱色を重ね、真紅・深紅となる。年間を通して、花々のにぎやかな沖縄だが、その中でも満開のデイゴの華やかさ、豪華さは、群を抜いて美しいものである。そして太陽のエネルギーを思いっきり吸い込んだように、たくましく開くデイゴの花々は、島に季節の巡りを伝えてくれる。

 毎年、デイゴ色が島を染めはじめると、春の訪れが待ち遠しかったあの冬を思い出す。急に訪れた最愛の母の入院生活…寒さの厳しい冬だった。病院の脇のデイゴの大木。私の身体を、精神を持ち上げるようにどっしりと立つ。一つ残らずに葉を落としていた冬のデイゴは、アスファルトをめりめりと割りながら、根はほどよい雨で潤った大地をつかみ、眩しく力強い紅を絞り出すように見せてくれた。忘れられないあの「うりずん」のみずみずしさ。母と一緒に迎えた「若夏」の爽やかな風。

 今年もクサゼミは、よい声を届け、島は「梅雨」から「夏」へと元気に巡りますように。

 デイゴの紅に私は祈る。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/4/15掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子7〕 ラジオ

 ラジオに夢中だったあのころ、石垣島ではAM放送もFM放送もクリアに受信できるのはNHKのみで、中でも私のお気に入りは毎週土曜日の『リクエストアワー』。熱心なリスナーだった私は友人と一生懸命に貯金をして、夏休みに豊見城のNHK沖縄放送局のスタジオにお訪ねしたこともありました。

 民放局で好きな芸能人がパーソナリティーをしている番組があれば、ラジカセのアンテナをあっちに向け、こっちにかたむけしてみたり、またはラジカセをかついで外へ移動したり、屋上に上がったり…。少しでも雑音が少なくなるなら、番組終了までアンテナをずっと握りしめていることも。とにかくラジオに無我夢中の中学時代でした。

 番組へのお便りも、今ではFAXやEメールが主流のようですが、友達と多種多様なカラーペンを持ち寄って、葉書を色とりどりに仕上げ、学校への道すがら祈るように投函したものです。指折り数えて放送日を待つ緊張感、ペンネームをよみあげられたときの気恥ずかしさ、リクエスト曲が流れた時のホッとした心持ち…。今思えば、内緒にしたいこと、秘密にしていることでも、素直に話せる、相談できてしまう、送受信間の何とも言えない距離の近さに、高校受験を控えた思春期の私は温かく支えられていたのでしょう。

 さて、石垣島も受信チャンネルが増え、久々にラジオに浸っている今日このごろの私です。生放送のライブ感は、私のためにだけ、ささやいてくれているような感覚があり「対お茶の間」のテレビとは違って、ラジオは「対個人」のエンターテイメントだ!と思えるほどです。

 最近では雑音無しで世界中から受信できるデジタルラジオなどもあり、また以前のような至難のアンテナ技も必要ではありません。テレビは総デジタル化を目指して目下急進中…。ラジオは決して派手でも、大仕掛けでもない、言葉と音だけでつづられるシンプルメディアです。でも元祖「参加型」のラジオが持つ「心の通い合い」こそ、私たちの求めている真の「双方向メディア」ではないでしょうか。

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子6〕 海開き・海結び

 石垣島の海開きは、いつごろから三月にするようになったのでしょうか…はっきりと思い出せませんが、頭に浮かぶことは「寒い」という記憶。大体はジャンパーやウインドブレーカー、腕組みをしてブルブルと震えながら…という絵柄ばかり思い出されます。

 「青い空・青い海」を島の宝に、観光業という生業が成り立っている島なのですから、島の青が一番美しいお決まりの季節に、堂々と開催してはいかが、と思うのは私だけでしょうか…。

 眩しく射込む陽光のもと、吹き出す汗と冷たいビールの追っかけっこを楽しみたい!素足にサンダル、夏のおしゃれも満喫したい!と思うものですが、現実はアイスだってスイカだって、きっと×ゲームだろうし、サングラスだってまだまだ出番じゃない…。海の神様、祭事こそ、最もふさわしい頃合いが大切ではないのですか?

 さて今年は、去る三月十三日に「日本一早い夏!最南端八重山の海びらき」と題して石垣市川平の底地ビーチで開催されました。調子よく続いていた夏日が一変して急激な冷え込み…初泳ぎの時間帯には十二・四度。海びらき日和に恵まれた去年の陽気に引き続き…とはいきませんでした。地元の新聞につづられたのは「防寒対策をしての初泳ぎ」や「寒さに悲鳴」の文字。写真にはニット帽やフリース、セーターの出で立ちも。「日本一早い」ことへのこだわりを貫かなくてはならないのなら、いっそのこと新年元日に開催される小笠原の海開きにあやかってはいかがでしょうか。そのころの方がよっぽど夏日に恵まれているものですよね。

 「日本一」でなくていい、「早く」なくていいから、「美しい」海開きで夏をお招きしたい、かけがえのないこの島の、輝く彩、薫り、恵みを、私は堂々と自慢したいんですもの。その想いこそ、きっと観光の島の心ですよね。海を知り、海を慈しむ「美しい海の祭典」で夏をお迎えできる島人でありたい、そして、とじめの時には海への感謝祭「海結び」をしたいものですね。

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子5〕 後生の正月

 後生の正月、去る二月二四日が今年のその日でありました。父が「後生」いわゆる、のちの世で暮らすようになって、十四度目の正月(十六日祭)になりましょうか…一つ、一つ、年を重ねるごとに、墓前に集う親戚知人の思い出話にも、一つ、また一つと笑い声が重なるようになり、でも年を重ねる度に「どうしてこの中にパパがいないのかしら…」と横に抱く母は涙し…きっとこうして生きる道を紡いでいくのだろう、渡っていくのだろうと今年も節目の一つを重ねました。涙に感謝、笑いに感謝、どちらも私の、そして我が家の生きる力だなと、やっと思えるようになってきたのでしょう。

 さて私の父は、絵を描くことを生きる道としていた人ですが、日中の仕事(どちらが本業だったのでしょうか?)は博物館の学芸員をしており、我が家は年がら年中、客人が絶えない家でありました。文化芸能、美術工芸などに携わる各国、各地からの博物館へのお客様を引き続きお連れしては、さぁ!第二部は我が家で…という具合だったのです。まぁ、何よりも人の出会い、集い、語らいを愛する父でありました。

 八重山では年中の大きな行事の一つだということもあり、十六日祭も我が家の墓前は、実に多種多様な方々が座っていらっしゃったことを思い出します。いろいろなお顔を思い起こしながら、いつもそこには母の手料理がいっぱいに詰まった重箱を前に格別にご機嫌のよい父の姿があり…あの顔を私もおねだりしたい一心で今年も腕を振るうのでありましょう。

 父の初十六日祭…それまでとは一転して、さみしくて、寒さの厳しい我が家の十六日祭を一緒に過ごしてくださった方がいらっしゃいます。のちにその時のことを『後生の正月』と題してエッセイにしてくださった水上のおじいちゃま(作家水上勉氏)。言葉少なく、静かに、そして大切に、我が家の節目の時間を一緒に越してくださいました。「今年は初十六日祭ですね…この世はまたさみしくなりますが、第二部は、うちの父と、ぜひ賑やかにやってくださいね。」

合掌

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/3/4掲載)

2007.04.14 カテゴリー: 15 随筆/[唐獅子] | 個別ページ | コメント (0)

〔唐獅子4〕 あなたはいかが?

 至って古きものと、極めて新しいものに目がないのは、きっと父親譲りの性質であろう。他界した父が、今突然に甦ったら、この世の中の変わり様に甚だ興奮するに違いないと父のはしゃぐ姿を想像することがある。デジカメ、ホームシアターシステム、携帯電話、父ならきっと多機能な新機種に誰よりも先に、はまり込んでいたに違いない!

 さて父が確実に夢中になっていただろうと思うものの一つに『パソコン』がある。私の暮らしの中、または仕事においても欠かすことのできないものとなり、つき合いは十年になった。最近では私自信の食欲不振や睡眠不足よりも、パソコンの不具合や故障の方が作業に差し障る時が多々あり…操作をするのは人間ではないか!と思いながらも、太刀打ちできないことがあるからまことに情けないものである。

 インターネットも使いこなせるようになるまでは、マンガやSF映画のようなドキドキ感があったように思えるが、夢の世界のようだったヴァーチャルな感覚も、最近では近所のスーパーにお買い物に行く風である。スーパーですら一言も言葉を発せずに用を済ませてしまえるというのに、一歩も動かずに世界中のお店で買い物ができてしまうのだから「便利」というのは恐ろしいものである。今にお手洗いですら…と思える。

 さて先日、いつものようにネットショップにて本の注文をした。三日後の夕方、「代金引換のお荷物ですよ」と到着の電話。ウキウキとして待つ。夜八時…九時…配達のお兄さんは待っても待っても現われない。ウキウキが段々とわじわじーに変わり…私はドタドタと電話をする。「すいませんねぇ…今結婚式に出席してるからさぁ…明日の朝、行きましょうねぇ?」おつりが出ないように、しっかりと小銭まで揃えて待っている私の身にもなってよ!と一瞬、腹が立ったものの、何だか気が抜けて、ほのぼのとしてしまった。メディアによると世の中は文明のアイテムに振り回され、依存症などという文明病に犯されているというが、おかげさまで私はどうにか、まだ大丈夫な気がしている。

(沖縄タイムス「唐獅子」2005/2/18掲載)

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    お台所は 私の幸せの基地です。私の唯一の趣味の場であるお台所 夢がふくらむ一冊です。オススメ!

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登録年月 04/2007
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